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2021.05.28 病原体

思わずツッコミたい新型コロナ対策 空間除菌とか、除菌ゲートとか、噴霧装置とか・・・

著者:矢野 邦夫

清潔な空気の中で生活をすることは人々の希望です。汚れた空気の中で生活をしたり、仕事をしたいと思う人はいません。ましてや、新型コロナウイルスが浮遊している空気の中では、短時間であっても滞在したくないことでしょう。

そのような日常的な希望を具現化しようということで、空間除菌・除菌ゲート・噴霧装置などを設置して、空気中のウイルスを除菌するというパフォーマンスが行われています。次亜塩素酸水などをミストにして空気中に散布するのです。実際、多くのメーカーが機材を宣伝・販売しており、それを購入している企業や自治体もみられます。しかし、本当に有効なのでしょうか? 安全なのでしょうか?

実は、厚生労働省、世界保健機関(WHO)、米国疾病管理予防センター(CDC)は病原体を殺菌するために、消毒薬を用いて空間噴霧や燻蒸することを推奨していないのです(1,2,3)。特に、「ミストが高濃度となる小部屋、個室、トンネル内で消毒薬を人体に対して空間噴霧することは、いかなる状況であっても推奨されない」としています。有害だからです。

有効性についてはどうなのでしょうか? 消毒薬が殺菌効果を示すには、ある程度の接触時間が必要です。数多くの研究によって、細菌(サルモネラ菌や大腸菌など)、真菌(カンジダ属など)、抗酸菌(結核菌など)、ウイルス(ポリオウイルスなど)を殺滅するには、最低でも30~60秒の曝露時間が必要であることが判明しています(3)。空気中に病原体が浮遊しているところに、消毒薬を散布しても、病原体と消毒薬が30~60秒も接触することはないでしょう。おそらく、瞬時の接触時間と推定されます。空気中に浮遊している新型コロナウイルスを殺菌できる接触時間は明確ではありませんが、このウイルスだけは瞬時に殺滅できるということはないでしょう。すなわち、消毒薬の噴霧などによる空間除菌というのは、効果が期待できないのです。

今度は、安全性についてはどうなのでしょうか? 消毒薬のミストを肺に吸い込むのですから、肺組織への障害が心配されます。通常、人体に消毒薬を使用する場合は、皮膚に塗布します。粘膜に塗布することは、手術や歯科治療の一部を除いてほとんどありません。粘膜障害が心配だからです。肺は皮膚でも粘膜でもありません。肺の一番奥には「肺胞」があります。気管から気管支に別れ、さらに分枝を繰り返し、終末細気管支となり、そこに繋がる外気と血液のガス交換をあずかる重要な器官として肺胞があるのです。このような脆弱な組織に消毒薬を吸い込むということは、とても危険なことです。

(著者:浜松市感染症対策調整監/浜松医療センター感染症管理特別顧問 矢野 邦夫)

〔文献〕
(1)厚生労働省:新型コロナウイルスの消毒・除菌方法について
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/syoudoku_00001.html
(2) WHO:Cleaning and disinfection of environmental surfaces in the context of COVID-19
https//www.who.int/publications/i/item/cleaning-and-disinfection-of-environmental-surfaces-inthe-context-of-covid-19
(3)CDC:Guideline for disinfection and sterilization in healthcare facilities, 2008
https://www.cdc.gov/infectioncontrol/pdf/guidelines/disinfection-guidelines-H.pdf

著者プロフィール

矢野 邦夫(やの くにお)

浜松市感染症対策調整監/浜松医療センター感染症管理特別顧問

インフェクションコントロールドクター,日本感染症学会専門医・指導医。感染制御の専門家として多くの著書・論文を発表している。主な書籍に「がっちり万全な 新型コロナ感染対策 受験編20」「ばっちり安心な 新型コロナ感染対策 旅行編20」「うっかりやりがちな 新型コロナ感染対策の間違い15」「7日間できらりマスター 標準予防策・経路別予防策と耐性菌対策」「救急医療の感染対策がわかる本」「知って防ぐ!耐性菌 ESBL産生菌・MRSA・MDRP」(以上、ヴァン メディカル刊)など。