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2021.04.30 病原体

SARS-CoV-2ウイルスの感染動態から見えてくるCOVID-19治療の将来像 著者:渡辺 彰

 

2021年3月22日のPLOS Biologyに、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染後のウイルス排出の動態に関する重要な成績が報告された1)。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)では発症後のウイルス排出のピークが発症の2日後としており、このことからCOVID-19治療の将来像が見えてくる。我々が熟知しているインフルエンザ医療に近づくのである。

この研究1)では、COVID-19に加え、類似のコロナウイルス感染症、すなわち2002年に出現した重症急性呼吸器症候群(SARS)と2012年に出現した中東呼吸器症候群(MERS)をも含めて臨床試験データを収集し、各症例の間で不均一性があることを鑑み、生体内におけるウイルス感染動態を記述する数理モデルによる解析を行っている。その結果、COVID-19ではSARSや MERSに比し、発症後のウイルス排出量が早期にピークに達するという。すなわち、SARSにおけるピークは発症後7.2日、MERSにおけるピークが同12.2日であるのに対し、COVID-19では同2.0日がピークであった。さらに、コンピューターシミュレーションによる網羅的な分析を行い、ウイルス排出量のピーク以降の時期にウイルス複製阻害薬あるいはウイルス侵⼊阻害薬の投与を開始しても、ウイルス排出量の減少効果が限定的であるとしている。発症2日以降の投与開始では治療効果が低くなるということであるが、これはインフルエンザの場合とほぼ同じである。我々はしかし、インフルエンザの治療では目覚ましい効果を挙げている。

2009年に出現したインフルエンザウイルスA/H1N1pdm09による新型インフルエンザで我が国は、世界の主要国中、最小の死亡率にとどまった。最多の死亡者を出した米国の人口10万対の死亡率が3.96(死亡者数は12,000名以上)であるのに対し、我が国のそれは0.16(同200名)であった2)が、それを実現したのは迅速診断キットの普及と多種類の抗インフルエンザ薬のラインアップ、それらの早期使用を可能とする我が国の医療体制、特に、均質で安価な医療を迅速に受けられる国民皆保険体制であった。感染動態が似ているCOVID-19で同じ体制をとることができれば、対処は容易になるはずである。

今後のCOVID-19の治療に必要なのは、①手技が容易で安価な迅速診断キットの普及、②経口薬を含めて抗ウイルス薬が多種類で安価なこと、③それらの早期使用を可能とする医療体制、であると言える。①と②は開発が盛んであり、遠からず実用化が相次ぐと思われる。昨年の春以来のCOVID-19診療体制は残念ながら上記の③を満足してはいないが、①と②が実現していないからだと言えよう。我々が今できることは、いち早く実用化されたCOVID-19ワクチンの接種を広く進めて社会全体の免疫獲得を広範なものとすることであり、それによって①~③の効果を最大限に発揮できる環境が整うことを願うばかりである。

〔文献〕
1)Kim KS et al:A quantitative model used to compare within-host SARS-CoV-2, MERS-CoV, and SARS-CoV dynamics provides insights into the pathogenesis and treatment of SARS-CoV-2. PLOS Biol 19(3): e3001128. Mar 22, 2021.
https://doi.org/10.1371/journal.pbio.3001128

2)厚生労働省新型インフルエンザ対策推進本部:各国の状況について.第6回厚生労働省新型インフルエンザ(A/H1N1)対策総括会議資料、influ00528-05、厚生労働省、2010年5月28日
http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou04/dl/infu100528-05.pdf

著者プロフィール

渡辺 彰(わたなべ あきら)

東北文化学園大学医療福祉学部抗感染症薬開発研究部門 特任教授/公益財団法人宮城県結核予防会 理事長

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