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2021.02.24 病原体

バイオテロを想定した自衛隊の新型コロナ感染対策

著者:向野 賢治

昨年4月、福岡記念病院(当院)では新型コロナのアウトブレイクが起き、職員・患者合わせて20名が感染しました。その後、院内感染はしばらく収まりましたが、市内の感染者を15名ほど受け入れたため、職員に感染者が一人、二人とだらだら発生しました(計6名)。

この行き詰まりを打開するために、私たちは4月末に福岡市近郊の自衛隊病院を訪れました。自衛隊病院は全国的にコロナ患者を多数受け入れているにもかかわらず、院内感染がないこと、またダイヤモンド・プリンセス号における派遣活動時、厚生労働省関係者からは感染者が出たにもかかわらず、自衛隊員2,700名からは一人の感染者も出ていないこと、これらのことから当時自衛隊の感染対策活動を評価する声が高かったからです。私たちは何か感染対策のヒントが欲しいと思いました。

病棟視察とともに感染対策担当医師の講義を受けました。病院のゾーニング等は特別私たちと違いはありませんでした。ただ一つ心に残ったのは、「自衛隊が未知の病原体の感染対策に出動するときは、バイオテロを想定して行動する」という、厚生労働省とは異なる視点でした。自衛隊員がN95マスク、タイベック姿で船内に乗り込んでいた姿が目に浮かびました。バイオテロを想定するとは、空気感染(1,2)を想定することに他なりません。

これを機に当院では、N95マスクの積極的活用など、「空気予防策」並みの体制で臨むことになりました。「大部屋を使用せず、個室管理のみ」「個室内はレッドゾーンであり、通常のケアにもN95マスクを常時着用する」「個室内は常時換気する」が原則となりました。(もちろん当院にはコロナ用の陰圧個室はなく、前室もありません。冬場は開窓が困難なので、エアパーティションなどの空気清浄機を使用しています。)

こうして感染対策を厳し目に変更した結果、当院ではコロナ感染患者を常時5~8名受け入れてきましたが、昨年5月以降クラスターの発生を見ていません。ガイドライン通りの感染対策でうまく感染制御ができないときは、一度自衛隊式のバイオテロ対策に習ってより厳しい方法(空気予防策)を採るのも一つの代替案であると思います。

(著者:社会医療法人大成会福岡記念病院 感染制御部部長 向野 賢治)

〔文献〕
(1)西村秀一:新型コロナ「正しく恐れる」.藤原書店,東京,2020年
(2)Morawska L et al:It Is Time to Address Airborne Transmission of Coronavirus Disease 2019 (COVID-19). Clin Infect Dis 71:2311-2313, 2020

著者プロフィール

向野 賢治(こうの けんじ)

社会医療法人大成会福岡記念病院 感染制御部部長

内科医。専門は感染症・リウマチ。鹿児島大学出身。ハングル検定4級。今年、看護雑誌にナイチンゲールの伝記を連載予定です。