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2021.02.08 病原体

卒業式と謝恩会 コロナ感染の危険性―2つはまったく違います

著者:矢野 邦夫

毎年3月になると、卒業式があちらこちらで開催されます。卒業式では学生、教師、父兄、来賓などが式場に集まり祝典が開かれます。そして、卒業式の後には謝恩会が開催されることが多いと思います。新型コロナ対策として、卒業式には出席しないほうがよいのでしょうか? また、謝恩会は開催すべきではないのでしょうか?

コロナ感染の危険性の観点からは、卒業式と謝恩会はまったく違います。卒業式は厳粛な雰囲気で開催され、「マスクの着用と手指消毒をお願いします」などと案内されることでしょう。そして、会場の入り口では体温測定機器やアルコール手指消毒薬が準備されて、すべての参加者がチェックされます。そのような感染対策が管理されているところでは、クラスターは発生しにくいことが知られています。実際、感染対策が管理されている学校(幼稚園の年長から高校まで)では多数の生徒が集まっていても、クラスターは発生しにくいことが報告されています(1,2)。すなわち、卒業式では主催者の案内通りに感染対策を実施するのであれば、出席することは何ら問題ありません。

一方、謝恩会では飲み物や食べ物が準備され、アルコールが用意されることもあるでしょう。そこでは、参加者が楽しく会話し、ときには、大声で談笑すると思います。そして、飲食をすることから、マスクの着用の徹底は困難です。すなわち、新型コロナのクラスターが発生しやすい状況となっているのです。そのため、飲食付きの謝恩会は避けるのがよいと思います。

もちろん、テーブルの上にアクリル板などが設置され、すべての参加者の座席が指定され、飛沫を人から人へと飛散させない環境が準備されているならば安全かもしれません。しかし、実際には、参加者は会場を動き回り、少しでも楽しい会話を求めて移動します。そのような状況の中に、1人でも「無症状の感染者」もしくは「軽症ゆえに感染していることに気付いていない感染者」が紛れ込んだら、容易にクラスターは発生することでしょう。すなわち、謝恩会は余程慎重に対策を準備しなくてはなりません。少なくとも、従来の形式での開催は難しいと言えます。

卒業式と謝恩会は同日に連続して開催されることが多く、一纏めに考えられてしまいます。しかし、コロナ感染の危険性からすると、大きく異なります。卒業式は、現時点の感染対策を実施すれば開催可能です。しかし、謝恩会については、周到な準備がされない限り、開催を避けるのがよいでしょう。

(著者:浜松医療センター 院長補佐 兼 感染症内科部長 兼 衛生管理室長 矢野 邦夫)

〔文献〕
(1)Hobbs CV et al:Factors associated with positive SARS-CoV-2 test results in outpatient health facilities and emergency departments among children and adolescents aged <18 Years — Mississippi, September–November 2020
https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/69/wr/pdfs/mm6950e3-H.pdf
(2)Falk A et al:COVID-19 cases and transmission in 17 K–12 schools — Wood County, Wisconsin, August 31–November 29, 2020
https://www.cdc.gov/mmwr/volumes/70/wr/pdfs/mm7004e3-H.pdf

著者プロフィール

矢野 邦夫(やの くにお)

浜松医療センター 院長補佐 兼 感染症内科部長 兼 衛生管理室長

インフェクションコントロールドクター,日本感染症学会専門医・指導医。感染制御の専門家として多くの著書・論文を発表している。主な書籍に「がっちり万全な 新型コロナ感染対策 受験編20」「ばっちり安心な 新型コロナ感染対策 旅行編20」「うっかりやりがちな 新型コロナ感染対策の間違い15」「7日間できらりマスター 標準予防策・経路別予防策と耐性菌対策」「救急医療の感染対策がわかる本」「知って防ぐ!耐性菌 ESBL産生菌・MRSA・MDRP」(以上、ヴァン メディカル刊)など。