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2021.01.27 病原体

インフルエンザの解熱後によくある再発熱は、再感染? 自然経過? それとも抗インフルエンザ薬の副作用?

著者:渡辺 彰

インフルエンザ経過中の解熱後に時に見られる再発熱は二峰性発熱と言われ、小児、特に年少者で多いとされています。発熱以外の症状はほとんどなく、再感染とは言えません。一方、抗インフルエンザ薬の投与に伴ういわゆる「薬剤熱」であると考えて抗インフルエンザ薬ごとの発現頻度を報告している論文が幾つもあります。本当に抗インフルエンザ薬の投与に伴う発熱なのでしょうか?

本格的な抗インフルエンザ薬であるザナミビル(リレンザ)とオセルタミビル(タミフル)が実用化されたのは2000~2001年です。この発熱が2000年以前には見られなければ、あるいは2000年以降でも抗インフルエンザ薬の投与がなかった例で見られなければ、この発熱は「薬剤熱」である疑いが強くなります。

2001-02年シーズンのインフルエンザ罹患小児118例(1~12歳)で自然経過を見た報告があります(1)。ウイルス培養でA/H1N1が63例・A/N3N2が35例・Bが20例、治療は39℃以上の例へのアセトアミノフェンの投与だけです。発症後72~132時間に再度発熱した例はどのウイルス型でも見られたものの、B型では少ないという成績でした。二峰性発熱は抗インフルエンザ薬の投与がなくとも見られたわけですが、残念ながらその頻度は見ていません。

抗インフルエンザ薬の臨床試験で再発熱の頻度を見た報告があります。12歳以上の青少年・成人が対象のバロキサビル・マルボキシルとプラセボおよびオセルタミビルの無作為化二重盲検比較試験の結果を詳細に解析したものです(2)。バロキサビル投与例における再発熱の頻度は19~24%であり、プラセボ(20%)やオセルタミビル(16%)との間で有意差はありません。プラセボと同程度ですから、この発熱は「薬剤熱」というよりはインフルエンザの自然経過と考えてよさそうです。

では、二峰性発熱はなぜ起こるのでしょうか? 年少者で多いことから考えると、免疫システムの構築途上にある年少者では免疫の産生・発動とその調節が未熟なため、過剰な発熱が見られるのかも知れません。今後の解析が待たれます。

(著者:東北文化学園大学医療福祉学部抗感染症薬開発研究部門 特任教授/公益財団法人宮城県結核予防会 理事長 渡辺 彰)

〔文献〕
(1)Suzuki E et al:Natural course of fever during influenza virus infection in children. Clin Pediatr 46:76-79, 2007
(2)Uehara T et al:Treatment-emergent influenza variant viruses with reduced Baloxavir susceptibility: Impact on clinical and virologic outcomes in uncomplicated influenza. J Infect Dis 221:346-355, 2020

著者プロフィール

渡辺 彰(わたなべ あきら)

東北文化学園大学医療福祉学部抗感染症薬開発研究部門 特任教授
公益財団法人宮城県結核予防会 理事長

日本感染症学会専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会指導医。東北大学加齢医学研究所抗感染症薬開発寄附研究部門教授・日本感染症学会理事・日本結核病学会理事長・日本化学療法学会理事長を歴任。2013年、結核医療とインフルエンザ医療に関する貢献で第65回保健文化賞,2017年、抗インフルエンザ薬の臨床開発とインフルエンザ感染症対策の推進への貢献で日本化学療法学会の第28回志賀 潔・秦 佐八郎記念賞を受賞している。