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2021.01.21 病原体

静岡県の新型コロナ変異株

著者:矢野 邦夫

静岡県において、英国で流行している新型コロナ変異株の感染者が3人みつかりました(2021年1月18日厚生労働省発表)。そのうち、1人は感染の可能性のない期間に静岡県外への移動歴がないため、県内で市中感染した可能性があります。もちろん、他の県であっても、詳しく調べればみつかるかもしれません。

この変異株の正式名は「VOC-202012/01」です。ウイルスが人間の細胞に感染するためには、ウイルスの表面にあるスパイク蛋白質という突起物が細胞の表面にある受容体に結合する必要があります。この変異株ではスパイク蛋白質に変異があって、その形状が変わり、結合しやすくなりました。すなわち、感染しやすくなったのです。伝播のしやすさが1.7倍になったことから、今後、この変異株は国内でも広がっていき、3~4月頃には、主要な流行株になっているものと思われます。

従来の流行株と比較して、変異株での重症化率や致死率が高いということはありません。しかし、多くの人々が感染することから、重症患者や死亡患者の数は急増することでしょう。子どもが特に感染しやすいということはありませんが、全体的な感染者数が増えることから、子どもの感染者も増えることでしょう。この変異株によって、医療の逼迫に拍車がかかることが心配です。

感染対策としては、従来から実施されてきた「ユニバーサル・マスキング」「手指消毒」「身体的距離」「3密回避」などが有効です。しかし、これらが実施できない状況(飲食店、家庭内など)での感染の増大が心配されます。このウイルスは感染対策が不十分になる隙をついて伝播するので、感染対策を強化する必要があります。

この変異株に対して、ワクチンは有効です。現在実施している感染対策では変異株を制御することは困難です。そのため、強力な感染対策を加える必要があり、それがワクチンです。副反応が怖いということで、ワクチン接種を躊躇することは、是非とも避けなければなりません。特に、高齢者や基礎疾患のある人は必ず接種して欲しいと思います。子どもにはワクチンを接種できないことから、子どもを守るために、親は接種することが大切です。もちろん、医療従事者は患者を守り、医療を機能させるために、是非とも接種します。

(著者:浜松医療センター 院長補佐 兼 感染症内科部長 兼 衛生管理室長 矢野 邦夫)

著者プロフィール

矢野 邦夫(やの くにお)

浜松医療センター 院長補佐 兼 感染症内科部長 兼 衛生管理室長

インフェクションコントロールドクター,日本感染症学会専門医・指導医。感染制御の専門家として多くの著書・論文を発表している。主な書籍に「がっちり万全な 新型コロナ感染対策 受験編20」「ばっちり安心な 新型コロナ感染対策 旅行編20」「うっかりやりがちな 新型コロナ感染対策の間違い15」「7日間できらりマスター 標準予防策・経路別予防策と耐性菌対策」「救急医療の感染対策がわかる本」「知って防ぐ!耐性菌 ESBL産生菌・MRSA・MDRP」(以上、ヴァン メディカル刊)など。