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2021.01.21 病原体

新型コロナ治療 最新知見から見るステロイド治療の展望

著者:渡辺 彰

2020年3月、世界保健機関(WHO)は新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の暫定ガイドラインで、ステロイド薬の使用を非推奨としました。事実上の禁忌ですが、その頃の日本感染症学会のCOVID-19症例報告サイトを見ると約5%(多くが急性呼吸窮迫症候群(ARDS)などの重症例)でステロイド薬が使用されて、良好な結果が得られています。同年7月にはThe New England Journal of Medicine(NEJM)誌に、COVID-19入院例に対する標準治療のみの4,321例とデキサメタゾン6mg/日の10日間投与を加えた2,104例の臨床試験成績が報告されました(1)。結果は、侵襲的人工呼吸管理を要する重症例でデキサメタゾン群の死亡率が有意に低くて28日以内の退院も多いが、軽症例では有意差がないというものです。

この頃からCOVID-19の重症例でステロイド薬投与が有用という成績が複数報告され始め、WHOは同年9月2日、COVID-19の重症例に対する低用量デキサメタゾンの投与を推奨するに至りました。半年で姿勢が180度変わったわけですが、日本でも同月9日、日本集中医療学会と日本救急医学会が合同でCOVID-19の薬物治療ガイドラインを発表し、酸素吸入が必要な中等症以上の例に対するデキサメタゾンの投与を推奨しました。

2020年12月3日には米国国立衛生研究所(NIH)がCOVID-19患者の治療ガイドライン(2)を発表し、そこでは重症度を軽症例から順に、①入院の必要がない軽症~中等症例、②入院は必要だが酸素投与不要の例、③入院と酸素投与が必要な例、④入院と高流量酸素投与が必要な例、⑤入院と侵襲的人工呼吸管理や体外式膜型人工肺(ECMO)が必要な例、に分けています。そして①と②ではデキサメタゾンの投与の必要はなく、③と④ではレムデシビルとデキサメタゾンの各々単独もしくは併用、⑤ではデキサメタゾンの投与を推奨しており、重症例ほどデキサメタゾンの投与を強く推奨しています。

一方、吸入ステロイド薬であるシクレソニドの治療と対症療法との非盲検ランダム化第Ⅱ相試験が無症状~軽症例を対象に日本で行われ、シクレソニド群で肺炎増悪例が有意に多いという結果が2020年12月23日に報告されました(3)。ステロイド薬投与の適応は、やはり重症例であると思われ、前記のような重症度が判断の基準になります。

(著者:東北文化学園大学医療福祉学部抗感染症薬開発研究部門 特任教授/公益財団法人宮城県結核予防会 理事長 渡辺 彰)

〔文献〕
(1)Horby P et al:Dexamethasone in hospitalized patients with COVID-19-Preliminary report. N Engl J Med 2020 Jul 17, doi:10.1056/NEJMoa2021436.
(2)NIH:Therapeutic management of patients with COVID-19.
https://www.covid19treatmentguidelines.nih.gov/therapeutic-management/
(3)国立研究開発法人国立国際医療研究センター:吸入ステロイド薬シクレソニド(販売名:オルベスコ)のCOVID-19を対象とした特定臨床研究結果速報について.
https://www.ncgm.go.jp/pressrelease/2020/20201223_1.html

著者プロフィール

渡辺 彰(わたなべ あきら)

東北文化学園大学医療福祉学部抗感染症薬開発研究部門 特任教授
公益財団法人宮城県結核予防会 理事長

日本感染症学会専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会指導医。東北大学加齢医学研究所抗感染症薬開発寄附研究部門教授・日本感染症学会理事・日本結核病学会理事長・日本化学療法学会理事長を歴任。2013年、結核医療とインフルエンザ医療に関する貢献で第65回保健文化賞,2017年、抗インフルエンザ薬の臨床開発とインフルエンザ感染症対策の推進への貢献で日本化学療法学会の第28回志賀 潔・秦 佐八郎記念賞を受賞している。