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2020.07.13 病原体

新型コロナウイルスと空気感染〔矢野邦夫タイムズ WHO COVID-19 ぷちREPORT No.16〕

著者:矢野 邦夫

新型コロナウイルスが空気感染するのかが議論となっています。もし、空気感染するとなれば、医療現場では新型コロナウイルス感染症の患者のみならず、それが疑われる患者すべてに対して、空気予防策を実施しなくてはなりません。空気予防策では医療従事者は高性能マスクを着用し、患者は陰圧室に入室させます。そのような対応はマンパワー的にも施設的にも不可能であり、医療現場は大混乱となることでしょう。それについてWHOが見解を出しているので、簡単に紹介します(1)。結論は「従来通りの院内感染対策を実施すればよい!」ということでした。

現在までのエビデンスによれば、新型コロナウイルスは唾液や気道分泌物などを介して伝播します。そのため、感染者と直接接触したり、間接的に接触したり、もしくは濃厚接触した時に感染します。また、感染者が咳やくしゃみをしたり、会話や歌ったりする時に気道から排出される飛沫を介しても伝播します。

このように、新型コロナウイルスは主に接触感染と飛沫感染で伝播しますが、状況によっては、空気感染が発生するかもしれません。そのような状況とは「医療環境でエアロゾル産生処置(ネブライザー治療や挿管など)を実施する時」「屋内の混雑した換気の悪い場所に長時間滞在する時」です。したがって、院内感染対策としては、接触予防策(ガウンや手袋を着用する)および飛沫予防策(医療用マスクを着用する)を実施し、エアロゾル産生処置を実施する時には空気予防策を併用します。

一般の方々は手洗いをして手指の汚染を除去し、マスクを着用して自分が感染している場合に周囲の人々に飛沫を飛散させないようにします。そして、屋内の混雑した換気の悪い場所に長時間滞在しなければよいのです。

(著者:浜松医療センター 院長補佐 兼 感染症内科部長 兼 衛生管理室長 矢野 邦夫)

〔文献〕
(1)WHO:Subject in Focus: Transmission of SARS-CoV-2: implications for infection prevention precautions.
https://www.who.int/docs/default-source/coronaviruse/situation-reports/20200710-covid-19-sitrep-172.pdf?sfvrsn=70724b90_2

著者プロフィール

矢野 邦夫(やの くにお)

浜松医療センター 院長補佐 兼 感染症内科部長 兼 衛生管理室長

インフェクションコントロールドクター,日本感染症学会専門医・指導医。感染制御の専門家として多くの著書・論文を発表している。主な書籍に「救急医療の感染対策がわかる本」,「知って防ぐ!耐性菌 ESBL産生菌・MRSA・MDRP」(ヴァン メディカル刊)など。