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2020.05.11 病原体

矢野邦夫タイムズ WHO COVID-19 ぷちREPORT No.5 COVID-19 virus? SARS-CoV-2?

著者:矢野 邦夫

新型コロナウイルス感染症の正式名は「COVID-19」であり、その原因ウイルスは「SARS-CoV-2」と命名されています。しかし、WHOなどのホームページでは「COVID-19 virus」と記載されているのを見かけることがあります。確かに、SARS-CoV-2という名称は2003年に世界を震撼させたSARSの原因ウイルスのような印象をもってしまうので、COVID-19 virusの方がわかりやすいかもしれません。これについて、WHOの解説を紹介します(1)。

■疾患およびウイルスの命名のプロセスと目的

ウイルスや疾患に名前を付けるには、さまざまなプロセスと目的があります。ウイルスは、診断テスト、ワクチン、医薬品の開発を容易にするために、その遺伝的構造に基づいて命名されます。 ウイルス学者やより広い科学コミュニティがこの作業を行っており、国際ウイルス分類委員会(ICTV:International Committee on Taxonomy of Viruses)によって命名されます。

一方、疾患は、疾患の予防、拡大、伝染性、重症度、治療に関する議論を可能にするために命名されます。人間の疾患への準備と対応はWHOの役割であり、国際疾病分類(ICD:International Classification of Diseases)を用いてWHOによって正式に命名されます。

■SARS-CoV-2とCOVID-19

新型コロナウイルスは当初は暫定的に「2019-nCoV」と命名されていましたが、2020年2月11日に新しいウイルスの名前として、ICTVは「SARS-CoV-2(severe acute respiratory syndrome coronavirus 2)」を発表しました。この名称は、ウイルスが2003年のSARSアウトブレイクの原因であるコロナウイルス(SARS-CoV)に遺伝的に関連しているために選択されました。2つのウイルス(SARS-CoVおよびSARS-CoV-2)は関連しているももの、異なるウイルスです。

2020年2月11日、WHOは、この新しい疾患を「COVID-19」と命名しました。これは、世界動物衛生機構(OIE:World Organisation for Animal Health)と国連食糧農業機関(FAO:Food and Agriculture Organization of the United Nations)が以前に策定したガイドラインに従ったものとなっています。

■COVID-19原因ウイルス、COVID-19ウイルス

既に述べたように、COVID-19の原因ウイルスの正式名はSARS-CoV-2です。しかし、SARSという名前をウイルス名に使用すると、一部の住民、特に2003年のSARSアウトブレイクにより最悪の影響を受けたアジアに不必要な恐怖をもたらし、意図しない結果が生じる可能性があります。そのため、WHOは、一般の人々に対しては、このウイルスを「COVID-19原因ウイルス(virus responsible for COVID-19)」または「COVID-19ウイルス(COVID-19 virus)」と呼んでいます。これらの呼称はどちらも、ICTVが命名したウイルス名(SARS-CoV-2)の代わりとなるものではありません。また、ウイルスが正式に命名される前に公開された資料では、ウイルス名として2019-nCoVが記載されていますが、これについても混乱を避けるために、必要でない限り更新されません。

〔文献〕
(1)WHO:Naming the coronavirus disease (COVID-19) and the virus that causes it.
https://www.who.int/emergencies/diseases/novel-coronavirus-2019/technical-guidance/naming-the-coronavirus-disease-(covid-2019)-and-the-virus-that-causes-it

著者プロフィール

矢野 邦夫(やの くにお)

浜松医療センター 院長補佐 兼 感染症内科部長 兼 衛生管理室長

インフェクションコントロールドクター,日本感染症学会専門医・指導医。感染制御の専門家として多くの著書・論文を発表している。主な書籍に「救急医療の感染対策がわかる本」,「知って防ぐ!耐性菌 ESBL産生菌・MRSA・MDRP」(ヴァン メディカル刊)など。