感染対策のポータルサイト「感染対策Online」
感染対策Online
2020.04.06 病原体

小児における新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の動向と臨床的特徴

著者:森岡 一朗

2019年 12 月に発生した新型コロナウイルスは武漢市を中心に大規模な流行が生じました。その後、我が国においても成人を中心に新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者の報告数が増加しています。最近(2020年4月5日現在)、我が国において小児のCOVID-19患者、さらには重症例が出現し、小児の感染者の動向や臨床的特徴が注目されています。

■小児の動向と臨床的特徴

中国疾病予防管理センターから、2020年2月に公表された報告では44,672人のCOVID-19患者のうち10歳未満は416人(1%)であり(1)、3月に公表された疑い例も含む2,143人のCOVID-19小児患者のうち重症者は125人(6%)で、90%以上の感染児は無症状または軽症〜中等症でした(2)。この報告をもとに考えると、我が国においても成人のCOVID-19患者数に比して、小児の患者数は少なく、感染しても重症者は少ないと考えられます。ただし、我が国で新型コロナウイルスが流行すればするほど、小児の発症者が出現し、必ず重症者も出てきます。

日本小児科学会がまとめた小児の臨床的特徴は、以下です(2020年3月現在)(3)。

  1. 主な症状は、発熱と咳嗽
  2. 鼻汁や鼻閉などの鼻症状は比較的少なく、嘔吐、腹痛や下痢などの消化器症状も特徴的ではない
  3. 喘鳴は少ない
  4. 軽症あるいは自然軽快する症例がほとんど
  5. ウイルス排泄は、症状の有無にかかわらず鼻咽腔の他に便中からも長期にわたって確認される
  6. 小児の報告例が少ない理由は、無症状あるいは軽症が多く、PCR検査の実施に至っていないためではないか

最近、中国の武漢こども病院からの171人の小児の新型コロナウイルス感染者の報告で以下の臨床的特徴が報告されています(4)。

  1. 発熱を呈するのは71人(41%)で、そのほかの症状として咳と咽頭発赤が各々50%程度にみられた
  2. 27人(16%)は無症状
  3. 12人(7%)は画像検査で肺炎像はあるものの、臨床症状はなかった
  4. 3人(2%)がICUにて人工呼吸管理が行われた
  5. 1人(6%)が死亡し、残り170人(99%)は改善または快方に向かっている

小児のCOVID-19患者は比較的軽症が多いというのは朗報ですが、逆に無症候者が多いという特徴があります。現在、我が国で進行中のパンデミックを制御するための対策を行う上で、無症状の多い子どもたちの感染動向を知ることも重要となります。

〔文献〕
(1)Wu Z, McGoogan JM. Characteristics of and Important Lessons From the Coronavirus Disease 2019 (COVID-19) Outbreak in China: Summary of a Report of 72314 Cases From the Chinese Center for Disease Control and Prevention. JAMA. 2020. doi: 10.1001/jama.2020.2648.
(2)Dong Y, Mo X, Hu Y, et al. Epidemiological Characteristics of 2143 Pediatric Patients With 2019 Coronavirus Disease in China. Pediatrics. 2020. doi: 10.1542/peds.2020-0702.
(3)日本小児科学会. 小児の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)患者の臨床的な特徴. Avilable at: http://www.jpeds.or.jp/uploads/files/20200316_rinsho_tokucho.pdf. 2020年4月5日アクセス.
(4)Lu X, Zhang L, Du H, et al. SARS-CoV-2 Infection in Children. N Engl J Med. 2020. doi: 10.1056/NEJMc2005073.

著者プロフィール

森岡 一朗(もりおか いちろう)

日本大学医学部小児科学系小児科学分野 主任教授

日本小児科学会小児科専門医・指導医、日本周産期・新生児医学会周産期(新生児)専門医・指導医。日本新生児成育医学会の理事・予防接種感染対策委員長を務める。専門は、新生児・小児感染症、新生児医学、小児の成長・発達。これらに関する英文学術論文を多く発表している。主な著書に、日常診療と看護ケアのためのNICU感染対策(ヴァンメディカル刊)、新生児学テキスト(メディカ出版刊)がある。