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2020.03.27 病原体

この耐性菌言えますか?⑨BLNAR

著者:矢野 邦夫

BLNARは「βラクタマーゼ非産生アンピリシン耐性(β-lactamase negative ampicillin resistance)」の略語です。このような耐性を示すインフルエンザ菌を「BLNARインフルエンザ菌」と言いますが、「BLNAR」がインフルエンザ菌も含めた表現として使われることがあります。

まず、インフルエンザ菌について解説します。インフルエンザ菌は人間の上気道に常在していて、飛沫感染にてヒトからヒトに伝播します。インフルエンザ菌には莢膜を持つ有莢膜株と、持っていない無莢膜株があり、通常、有莢膜株の方が病原性が強いことが知られています。有莢膜株にはa~f型の6種類があり、その中でも、特にb型がもっとも病原性が高く、これを「Hib」と呼んでいます。

インフルエンザ菌による感染症は2つに大別されます。一つは上気道に定着してから、血中に侵入して菌血症や髄膜炎となる侵襲性インフルエンザ菌感染症です。これはHibによることがほとんどです。侵襲性インフルエンザ菌感染症は本来無菌環境である部位からインフルエンザ菌が分離された感染症(髄膜炎や菌血症)であり、全数報告対象(5類感染症)となっています。もう一つは直接的に感染して急性中耳炎や急性鼻副鼻腔炎となる非侵襲性感染症です。これは無莢膜株が主体となっています。

インフルエンザ菌の耐性には、BLPAR(βラクタマーゼ産生アンピシリン耐性:β-lactamase producing ampicillin resistant)とBLNARの2種類があります。BLPARはβラクタマーゼを産生することによって、耐性化したものです。そのため、βラクタマーゼ阻害薬を配合したペニシリンによる治療が可能です。一方、BLNARはペニシリン結合タンパク(PBP     :penicillin-binding protein)を変異させることによって耐性化したものなので、βラクタマーゼ阻害薬を配合したペニシリンであっても効果は期待できません。

インフルエンザ菌(BLPARやBLNARを含む)による感染症の予防には、Hibワクチンが有効です。Hibワクチンは2008年12月から国内で任意接種されるようになりました。当初は自費接種であったことと、品不足などの問題もあり、接種率は20%程度でした。2010~2011年にかけて、全国的に公費助成制度が導入され、無料での接種が可能となってから、接種率が増加し、患者数が激減しました。

著者プロフィール

矢野 邦夫(やの くにお)

浜松医療センター 院長補佐 兼 感染症内科部長 兼 衛生管理室長

インフェクションコントロールドクター,日本感染症学会専門医・指導医。感染制御の専門家として多くの著書・論文を発表している。主な書籍に「救急医療の感染対策がわかる本」,「知って防ぐ!耐性菌 ESBL産生菌・MRSA・MDRP」(ヴァン メディカル刊)など。