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2020.03.27 領域・分野別

マスターしたい感染経路別予防策 ①接触予防策

著者:矢野 邦夫

接触予防策は接触感染する感染症の患者に行う感染対策であり、患者身体や患者周囲の環境への接触によって病原体が医療従事者に付着するのを防ぐことを目的として実施されます。患者周囲の環境には患者が触れたり、患者からこぼれ落ちた病原体が付着しているので、そのような表面にも病原体が付着しているという前提で対応することが大切です。接触予防策は単独では実施できません。必ず、標準予防策に加えて実施します。接触予防策を必要とする感染症にはクロストリディオイデス・ディフィシル感染症や角化型疥癬などがありますが、創部からの過剰な排膿、便失禁、分泌物によって環境を広範囲に汚染する患者にも、接触予防策が必要です。

接触予防策では、ガウンと手袋を着用します。それらは入室時に着用し、病室から出る前に取り外して、廃棄します。特に、患者のケアを終えて、個人防護具を取り外している時に、医療従事者の身体や周囲の環境表面を汚染させないようにすることが大切です。また、取り外した後の手指衛生は必ず実施します。取り外しの時に手指が病原体によって汚染している可能性があるからです。

接触予防策を必要とする患者は個室に入室させます。個室が足りなければ、患者を同じ病原体を発症または保菌している別の患者と同じ病室に入室させます(コホーティング)。患者はできるだけ病室外には出ないようにしますが、CTなどのためにやむを得ず病室から出なくてはならない場合は、感染部位や保菌部位を覆います。接触予防策の患者を移送する前には、汚染した個人防護具は脱いで廃棄し、手指衛生をします。移送先で患者を取り扱う時には新しい個人防護具を着用します。

接触予防策の患者の病室では手指の高頻度接触表面(ベッドレール、オーバーベッドテーブル、ベッドサイドの整理たんす、バスルームの洗面所表面、ドアノブなど)や患者周囲の器具を重点的に清掃します。この場合、0.1%(1,000ppm)の次亜塩素酸ナトリウム溶液が用いられますが、塩素臭がほとんどなく、金属腐食性など素材に対する影響が少ないペルオキソ一硫酸水素カリウム配合剤が用いられることもあります。

医療器具はできるだけ使い捨てのものを使用しますが、血圧計のカフのように使い捨てできないものは、その患者専用とします。接触予防策下の患者に用いた器具を別の患者に使用せざるをえない場合は、他の患者に使用する前に洗浄および消毒します。

著者プロフィール

矢野 邦夫(やの くにお)

浜松医療センター 院長補佐 兼 感染症内科部長 兼 衛生管理室長

インフェクションコントロールドクター,日本感染症学会専門医・指導医。感染制御の専門家として多くの著書・論文を発表している。主な書籍に「救急医療の感染対策がわかる本」,「知って防ぐ!耐性菌 ESBL産生菌・MRSA・MDRP」(ヴァン メディカル刊)など。