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2021.12.06 病原体

オミクロン株は普通の風邪への第一歩か?—新型コロナ変異株の未来予測

著者:渡辺 彰

新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の新たな変異株のオミクロン株が急速に増加中です。11月11日にボツワナで採取された検体からの分離が最初のようですが、すでにアフリカ南部で広く増加しているとみられます。2021年9月にKrauseら(1)が、コロナワクチン接種が行き届いていない発展途上国へワクチンを先に配分して、新型コロナの蔓延を世界的規模で抑える方が変異株出現のリスクを減らす近道であると述べていましたが、現実はそのようには進まず、彼らの憂慮はワクチン接種完了率が極めて低いアフリカで現実となってしまいました。

2021年5月以降にデルタ株が主流となっていた南アフリカ共和国では、世界保健機関(WHO)が11月26日にオミクロン株をVOC(Variant of Concern:懸念される変異株)に指定する直前から、急速にデルタ株から置き換わり始めました。と共に、日本を含めて全世界に拡散し始め、各国が移動の制限やその他の水際対策を始めるなどパニックに近い様相です。デルタ株から急速に置き換わりつつあることから、感染性はさらに強いと考えるべきです。病原性はどうでしょうか? 報告がまだ少なくて不確実ですが、これまでの報道などからは重症化リスクは高くはなく、無症状~軽微な例が多いとも言われます。

新しい感染症が、出現初期には多くの死亡者を出しても、次第に病原性が弱まって死亡率も下がっていくことはよく見られます。15世紀末に新大陸からヨーロッパなどに侵入した梅毒は、当初高い死亡率を示したものの次第に低下し始め、根本的治療が見つかった20世紀初頭にはかなりおとなしくなっていました。1918年に出現して世界中で4,000万人以上を死亡させたスペイン風邪も、4~5年で落ち着いて季節性インフルエンザになっています。宿主をすぐ殺してしまう強い病原体は宿主の死亡により自分も生存できなくなりますが、逆に感染性が強くなっても病原性が弱くなれば生存できて、周囲への拡散も容易になります。

新型コロナも、感染性が強くなると同時に病原性が弱くなる変異株が出始めると、いずれは普通の風邪になると思われ、オミクロン株はその第一歩かもしれません。まだ数年はかかると思われますから、マスク・手洗い・三密回避・行動自粛などは続ける必要があります。最近、数多くの論文のメタ解析から、新型コロナの発症・伝播・死亡の相対リスクはマスクと手洗いで各々0.47、ソーシャルディスタンスで0.75まで下がるという報告が出ました(2)。真面目な日本人ならもっと下げられると思います。

(著者:東北文化学園大学医療福祉学部抗感染症薬開発研究部門 特任教授/公益財団法人宮城県結核予防会 理事長 渡辺 彰)

〔文献〕
(1)Krause PR et al:Considerations in boosting COVID-19 vaccine immune responses. Lancet 398(10308):1377-1380, 2021
(2)Talic S et al:Effectiveness of public health measures in reducing the incidence of covid-19, SARS-CoV-2 transmission, and covid-19 mortality: systematic review and meta-analysis. BMJ 375: e068302, 2021

著者プロフィール

渡辺 彰(わたなべ あきら)

東北文化学園大学医療福祉学部抗感染症薬開発研究部門 特任教授
公益財団法人宮城県結核予防会 理事長

日本感染症学会専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会指導医。東北大学加齢医学研究所抗感染症薬開発寄附研究部門教授・日本感染症学会理事・日本結核病学会理事長・日本化学療法学会理事長を歴任。2013年、結核医療とインフルエンザ医療に関する貢献で第65回保健文化賞,2017年、抗インフルエンザ薬の臨床開発とインフルエンザ感染症対策の推進への貢献で日本化学療法学会の第28回志賀 潔・秦 佐八郎記念賞を受賞している。