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2021.11.10 病原体

ファイザー社のパクスロビドは経口抗コロナウイルス薬の本命になるか?

著者:渡辺 彰

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)治療のゲームチェンジャー(≒切り札)は経口抗コロナウイルス薬であり、その早期投与です(1)。その一つであるメルク社のモルヌピラビルは、良好な臨床試験成績(2)を受けて最初に英国で使用が承認されました。2021年11月5日には、ファイザー社のパクスロビド(PF07321332と抗HIV薬のリトナビルの合剤)の臨床試験中間成績が報告されています(3)。RNAポリメラーゼ阻害薬のモルヌピラビルとは異なって、PF07321332は新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の複製の際に必要な3CLプロテアーゼを阻害し、基礎的検討では有意の結果が確認されています。

3,000例が目標の臨床試験(EPIC-HR試験)は2021年7月に開始されました。パクスロビドはPF07321332の血中濃度を高めて維持するために抗HIV薬のリトナビルが併用されており、発症早期で重症化のリスクが高く、非入院のCOVID-19成人患者を対象に、プラセボを対照薬として経口で5日間投与されました。今回、2021年9月29日までに登録された1,219人のデータが中間成績として評価されました。登録患者は北米、南米、欧州、アフリカ、アジアの各地区にまたがっていますが、中間解析対象の45%は米国の例でした。

発症3日以内の治療開始群では、プラセボ投与群(385例)では入院が27例、任意の原因による死亡が7例であったのに対し、本薬投与群(389例)では入院が3例で死亡例はなく、大きな有意差(p<0.0001)がありました。発症4日以内と5日以内の治療開始例を含めた解析でも、プラセボ投与群(612例)では入院が41例、任意の原因による死亡が10例であったのに対し、本薬投与群(607例)では入院が6例で死亡例はなく、やはり大きな有意差(p<0.0001)でした。

安全性は1,881例で解析され、有害事象は本薬群19%対プラセボ群21%で有意差がなく、そのほとんどが軽症でした。重篤な有害事象は本薬群1.7%対プラセボ群6.6%、試験薬中止に至ったのは同じく2.1%対4.1%でした。良好な結果に鑑みて、第三者委員会と米国食品医薬品局(FDA)の協議により本試験への患者登録は中止されており、今後は、緊急使用の承認が申請される予定ですが、低リスクの患者が対象のEPIC-SR試験と、予防投与の有効性を評価するEPIC-PEP試験が2021年の8月と9月に始まっています。

パクスロビドの今回の成績は、作用機序の異なるモルヌピラビルより高い治療効果と思われますが、同じ土俵で行った試験でない点は考慮すべきです。ただ、現在開発中の塩野義製薬のS-217662も同じ3CLプロテアーゼ阻害薬であり、これらには経口抗コロナウイルス薬の本命の資格が十分にあると思われます。

(著者:東北文化学園大学医療福祉学部抗感染症薬開発研究部門 特任教授/公益財団法人宮城県結核予防会 理事長 渡辺 彰)

〔文献〕
(1)渡辺 彰:新型コロナ治療のゲームチェンジャー 開発中の有望5薬に注目する.感染対策Online 2021-09-27 https://www.kansentaisaku.jp/2021/09/3217/
(2)Merck.com:Merck and Ridgeback’s Investigational Oral Antiviral Molnupiravir Reduced the Risk of Hospitalization or Death by Approximately 50 Percent Compared to Placebo for Patients with Mild or Moderate COVID-19 in Positive Interim Analysis of Phase 3 Study. https://www.merck.com/news/merck-and-ridgebacks-investigational-oral-antiviral-molnupiravir-reduced-the-risk-of-hospitalization-or-death-by-approximately-50-percent-compared-to-placebo-for-patients-with-mild-or-moderat/
(3)Pfizer Inc.:Pfizer’s novel COVID-19 oral antiviral treatment candidate reduced risk of hospitarization or death by 89% in interim analysis of phase 2/3 EPIC-HR study.
https://www.pfizer.com/news/press-release/press-release-detail/pfizers-novel-covid-19-oral-antiviral-treatment-candidate

著者プロフィール

渡辺 彰(わたなべ あきら)

東北文化学園大学医療福祉学部抗感染症薬開発研究部門 特任教授
公益財団法人宮城県結核予防会 理事長

日本感染症学会専門医・指導医、日本結核・非結核性抗酸菌症学会指導医。東北大学加齢医学研究所抗感染症薬開発寄附研究部門教授・日本感染症学会理事・日本結核病学会理事長・日本化学療法学会理事長を歴任。2013年、結核医療とインフルエンザ医療に関する貢献で第65回保健文化賞,2017年、抗インフルエンザ薬の臨床開発とインフルエンザ感染症対策の推進への貢献で日本化学療法学会の第28回志賀 潔・秦 佐八郎記念賞を受賞している。