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2020.05.12 病原体

矢野邦夫タイムズ WHO COVID-19 ぷちREPORT No.6 ACE阻害薬・ARBとCOVID-19

著者:矢野 邦夫

多くの人々が降圧剤としてアンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)やアンジオテンシン受容体拮抗薬(ARB)を服用していますが、それによってCOVID-19に感染しやすくなるのではないかと心配する人がいます。これらの薬剤によって、ACE2(アンジオテンシン変換酵素2)が増加するという動物実験の報告があり、そして、SARS-CoV-2(COVID-19ウイルス)は細胞に侵入する時に、ACE2を受容体として利用するからです。
このような心配事について、様々な医学誌や学会が「問題ない」という記述をしていますが、WHOもまた同様の声明を出しているので紹介します(1)。

世界中の何百万もの人々が高血圧、心不全、冠動脈疾患、腎臓病に対して、ACE阻害薬やARBによる治療を受けています。一方、COVID-19の転帰が不良であった患者には、高血圧やその他の心血管合併症の患者が極めて多いという観察があります。そのため、COVID-19パンデミックの期間にこれらの薬物療法を受けている患者では転帰が悪くなるのではないかという推測がなされ、患者とその医療提供者の間で大きな不安を引き起こしてきました。しかし、これらの薬物を無差別に中止した場合の心血管系への悪影響もまた十分に証明されているため、むやみに中止することはできません。

迅速なレビューにより、11件の観察研究が特定されました。そのうち8件は中国で実施され、イタリア、英国、米国でも単一の研究が実施されました。ほぼすべての研究には、検査で確認されたCOVID-19患者のみが登録されていました。ACE阻害薬またはARBがCOVID-19に罹患するリスクを高めるかどうかを直接評価した研究は見つかりませんでしたが、ACE阻害薬やARBの使用歴は、COVID-19の重症度の増加と関連していませんでした。また、COVID-19患者の治療としてACE阻害薬またはARBを開始することの有用性と有害性を示した研究はありませんでしたが、これらの薬剤による長期療法を受けている患者では、COVID-19の転帰不良のリスクは高くないというエビデンス(ただし、確実性の低いエビデンス)がありました。
結局、WHOもまた、様々な学会の見解と同様に、ACE阻害薬・ARBは従来通り、降圧治療薬として継続してもよいと述べています。

〔文献〕
(1)WHO:COVID-19 and the use of angiotensin-converting enzyme inhibitors and receptor blockers.
https://www.who.int/news-room/commentaries/detail/covid-19-and-the-use-of-angiotensin-converting-enzyme-inhibitors-and-receptor-blockers

著者プロフィール

矢野 邦夫(やの くにお)

浜松医療センター 院長補佐 兼 感染症内科部長 兼 衛生管理室長

インフェクションコントロールドクター,日本感染症学会専門医・指導医。感染制御の専門家として多くの著書・論文を発表している。主な書籍に「救急医療の感染対策がわかる本」,「知って防ぐ!耐性菌 ESBL産生菌・MRSA・MDRP」(ヴァン メディカル刊)など。