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2020.03.27 病原体

この耐性菌言えますか?⑩MDR-TB・XDR-TB

著者:矢野 邦夫

MDR-TBは「多剤耐性結核菌(multi-drug resistant Mycobacterium tuberculosis)」、XDR-TBは「超多剤耐性結核菌(extensively drug resistant Mycobacterium tuberculosis)」の略語です。

抗結核薬が誤って使用されたり取り扱われたりすると、結核菌は耐性化して「耐性結核」となります。「患者が治療の全コースを完遂しない」「医療者が誤った抗結核薬、誤った薬剤量、誤った治療期間で処方した」「抗結核薬が常に供給できない」「抗結核薬の質が乏しい」などが耐性結核を誘導する要因となっています。

MDR-TBはイソニアジドとリファンピシンに耐性の結核菌のことを言います。イソニアジドとリファンピシンは第1選択の抗結核薬と考えられていて、すべての結核患者に使用されている最も強力な抗結核薬です。これらに耐性であることから、その治療には難渋します。MDR-TBは第2選択薬(アミカシン、カナマイシン、カプレオマイシン)を用いることによって治療することができますが、これらの薬剤は第1選択薬よりも副作用が多く、高価であり、有効性が乏しいという問題があります。また、18~24ヵ月の治療を必要とします。治療期間が長期化すれば、その経過の中で薬剤服用の完遂率が低下し、さらなる耐性化を誘導する危険性があります。

XDR-TBは「イソニアジドとリファンピシンへの耐性」+「すべてのフルオロキノロン系への耐性」+「3種類の注射用第2選択薬(アミカシン、カナマイシン、カプレオマイシン)のうち少なくとも1剤に耐性」の結核菌のことを言います。XDR-TBは第1選択薬および第2選択薬に耐性なので、治療薬を選択するのが極めて困難となっています。そのため、治療しても効果が期待できないことがほとんどであり、治療中に死亡する割合は高く、その死亡率は前抗結核薬時代の結核患者の死亡率に近いといえます。特にヒト免疫不全ウイルス(HIV)感染者や免疫システムが弱った人では問題となります。これらの人々は健康な人々と比較すると、結核菌に感染すれば結核を発症しやすく、結核を発症すると死亡する危険性が高いからです。

MDR-TBであっても、XDR-TBであっても、結核菌であることには変わりはありません。感染経路や自然経過については感受性結核菌と同じです。しかし、結核を発症した時の治療や潜在性結核感染の治療で用いることができる抗結核薬が限定されているという問題はあります。

著者プロフィール

矢野 邦夫(やの くにお)

浜松医療センター 院長補佐 兼 感染症内科部長 兼 衛生管理室長

インフェクションコントロールドクター,日本感染症学会専門医・指導医。感染制御の専門家として多くの著書・論文を発表している。主な書籍に「救急医療の感染対策がわかる本」,「知って防ぐ!耐性菌 ESBL産生菌・MRSA・MDRP」(ヴァン メディカル刊)など。