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2020.03.27 領域・分野別

今さら聞けない! 標準予防策 ①手指衛生

著者:矢野 邦夫

手洗いは目的によって「日常的手洗い」「衛生的手洗い」「手術時手洗い」の3つに分けられます。「日常的手洗い」は食事の前や排便排尿後などの家庭や社会生活において行われる手洗いです。一般的に石鹸と水道水、または水道水のみにて行われています。「衛生的手洗い」は病棟や外来などで診療の前後に行われており、石鹸と水道水またはアルコール手指消毒薬にて行われています。「手術時手洗い」は手術前に行われる最も水準の高い手洗いであり、アルコールなどの手指消毒薬を用いた手洗いです。ここでは、病院にて実施されている「衛生的手洗い」と「手術時手洗い」について述べます。

「衛生的手洗い」では、手が肉眼的に汚れていなければ、アルコール手指消毒薬を用い、手が肉眼的に汚れるか蛋白性物質で汚染された場合には石鹸と水道水にて手洗いをします。石鹸と流水の手洗いよりもアルコール手指消毒薬が優先的に利用される主な理由は下記の3つです。

①石鹸はかならずしも手に優しくない。
②アルコールは石鹸と水道水の手洗いよりも殺菌力が強い。
③アルコールは手指衛生に必要な時間を短縮できる。

しかし、アルコール手指消毒薬にも問題があります。手が見るからに汚れていたり、蛋白性物質で汚染されているとアルコールの効果は減少します。このような場合には石鹸と流水によって手の汚れを洗い落とします。また、クロストリディオイデス・ディフィシルや炭疽菌といった芽胞形成性病原体の患者のケアの後でも石鹸と水道水による手洗いを行います。芽胞はアルコールでは殺菌できないからです。同様に、ノロウイルスのようにアルコールに抵抗性を示す病原体に感染している患者のケアにおいても手洗いが推奨されます。

ここで大切なことは、「石鹸と水道水での手洗い」と「アルコール手指消毒」の両方を実施してはならないということです。どちらか一方を実施します。アルコール手指消毒薬の方が、石鹸と水道水よりも殺菌効果が強いということで、石鹸と水道水で手洗いした後に、念のためにアルコール手指消毒を実施するスタッフがいます。そのような行為は手荒れを引き起こすので避けるべきです。

手術時手洗いについては、過去にはブラシを使って手術時手洗いをするよう求められていた時代がありました。しかし、このような方法は皮膚を損傷し、結果的に手指の細菌数を多くしてしまうことが明らかになりました。現在は、アルコール手指消毒薬を用いて、ブラシは使用しない手術時手洗いが行われています。

著者プロフィール

矢野 邦夫(やの くにお)

浜松医療センター 院長補佐 兼 感染症内科部長 兼 衛生管理室長

インフェクションコントロールドクター,日本感染症学会専門医・指導医。感染制御の専門家として多くの著書・論文を発表している。主な書籍に「救急医療の感染対策がわかる本」,「知って防ぐ!耐性菌 ESBL産生菌・MRSA・MDRP」(ヴァン メディカル刊)など。