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2020.03.27 領域・分野別

マスターしたい感染経路別予防策 ③空気予防策

著者:矢野 邦夫

空気予防策は空気感染する感染症(結核、麻疹、水痘)の患者が入院している時に実施されます。これらの患者の気道から飛び出す飛沫核には病原体が含まれており、空気中を浮遊します。そのため、患者を空気感染隔離室に入室させます。

空気感染隔離室では、病室内が陰圧となり、1時間に6~12回の換気がなされ、空気は病室から建物の外部に直接排気されるか、病室に戻る前にHEPAフィルタで濾過されてから再循環させます。患者の入室期間は、室内の空気圧が陰圧であることを毎日確認して記録します。

空気感染隔離室に入室する医療従事者はN95マスクを着用します。サージカルマスクでは顔面とマスクの間の間隙から空気が流れこんでしまうからです。N95マスクを適切に着用するためには、フィットテストとシールチェックが不可欠です。N95マスクと皮膚の間に間隙があると、空気中に浮遊してる病原体がマスク内に侵入してしまうので、空気の漏れがないことを確認することが大切です。

フィットテストではN95マスクを着用してからフードをかぶり、口の近くの穴からフード内に、サッカリンなど味を感知できるものを噴霧します。舌に味を感じなければN95マスクと顔の間に隙間がないということになり、フィットテストは合格となります。最近は定量的フィットテストが頻用されるようになりました。これは室内粉塵を用いてN95マスクの顔面への密着性を測定する方法です。専用の機器を用いて、N95マスクの外側と内側の粒子の割合を測定し、漏れ率を定量的に測定します。正確な数値で客観的にフィット率を測定できるという利点があります。

フィットテストには時間を要し、毎回の病室入室前に実施することは困難なので、実際の病室の入室前にはシールチェックを実施します。シールチェックはN95マスクを着用するたびに、マスクと顔の皮膚が密着しているかどうかを確認するために実施されます。ごく簡単にできる手技なので、多忙な病棟業務においても実践可能です。シールチェックには陽圧チェックと陰圧チェックがあります。

陽圧チェックでは、N95マスクの表面を手または家庭用プラスティックフィルムにて覆ってから優しく息を吐きます。マスク周囲から空気の漏れを感じなければ、陽圧チェックは合格です。陰圧チェックでは、優しく息を吸って、N95マスクが顔に吸い付くようにします。マスクが顔に向かって引きつけられれば、または、使用者がマスクの周囲から空気の漏れを感じなければ、陰圧チェックも合格です。

空気感染隔離室に入院している患者は医療従事者が入室している間は飛沫核が空気中に拡散しないようにサージカルマスクを着用して咳エチケットを実施します。しかし、医療従事者が退室した後はマスクの着用は必要ありません。

著者プロフィール

矢野 邦夫(やの くにお)

浜松医療センター 院長補佐 兼 感染症内科部長 兼 衛生管理室長

インフェクションコントロールドクター,日本感染症学会専門医・指導医。感染制御の専門家として多くの著書・論文を発表している。主な書籍に「救急医療の感染対策がわかる本」,「知って防ぐ!耐性菌 ESBL産生菌・MRSA・MDRP」(ヴァン メディカル刊)など。