感染対策のポータルサイト「感染対策Online」
運営会社: Van Medical
2021.07.28 領域・分野別

手洗い石けんによる手指衛生―無添加石けん導入の取り組みと手指衛生における患者教育の重要性 著者:馬場 千草

 

はじめに

聖マリア病院(当院)は福岡県久留米市にある急性期医療を中心とした病院である。入院病床1,097床で,41の診療科があり,県外からの患者受け入れも多く,地域支援病院,地域災害拠点病院,救命救急センター,総合周産期母子医療センター,地域がん診療連携病院として,地域に貢献することを目標としている病院である。また,毎年,国際協力機構(JICA)からの研修生を受け入れ,国際協力にも力を入れている。

手洗い推進活動の実際

当院では,インフェクションコントロールドクター(ICD)の指導のもと,感染対策の基本は継続した手指衛生と環境整備が重要であると啓発し続けており,標準予防策の基本を毎年の職員教育の度に繰り返し指導している。

当院では,ハイリスク部門である新生児センターにおいて,メチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)のスクリーニング検査を実施していて,アウトブレイクのモニタリングが容易となっている。新規MRSAの発生が増加した場合には,微生物検査室より迅速に感染管理担当者へ報告があり,部署の看護管理者へ報告し,部署の協力を得て,現場の手指衛生遵守状況を確認している。手洗いのタイミングの状況を監視し,その際に,何か最近の変化は無かったかなどの聞き取りを行い,原因不明の場合には,疫学調査や臨時の環境培養を実施することもある。新生児センターでは,今までにも,新規MRSAのアウトブレイクを繰り返していたため,監視効果も期待して,2ヵ月に1回のセンター内30ヵ所に及ぶ環境培養を継続している。

高頻度接触面の環境整備の実施はもちろん,新生児のケアをする前での手指衛生が100%遵守ができていれば,たとえ,環境が汚染されていたとしても,生まれて間もない児に耐性菌が新規発生することはないはずである。

新生児部門の手指衛生においては,以前から,アルコール手指消毒剤よりも石けんによる流水手洗いが主流であり,アルコール手指消毒剤の適応でよいタイミングでも,流水手洗いを実施しているケースがあった。そのため,監視の度に指導を繰り返している。やはり,重症度が高くなり,処置が多い児(人工呼吸器装着,吸引処置が必要,人工肛門造設,全身における皮膚疾患があるなど)の入院が増えると,耐性菌の新規発生,感染伝播が起こる傾向がある。スタッフの移動がある時期にも新規発生は起こりやすいので,疫学調査のフィードバックのタイミングで医師と話し合いを持ち,その時期に手洗い強化キャンペーンなどの企画を提案中である。

携帯用アルコール手指消毒剤の運用

世界保健機関(WHO)の『手指衛生5つのタイミング』を実施するには,携帯用アルコール手指消毒剤が必要あり,2011年よりアルコール手指消毒剤の携帯をスタートさせた。

携帯用アルコール手指消毒剤は2,000人以上の職員の中で,看護職,リハビリテーション専門職,介護福祉士に携帯させ,個人使用量を毎月集計し,1患者あたりの使用量を出して,啓発につなげている。初めは,携帯することで業務の邪魔になる,などの意見も聞かれたが,現在は手荒れが重度のスタッフ以外は携帯できている。医師の携帯の比率は低いのが現状である。

手洗い石けんの変更・新規導入

当院では,2015年まで,手洗い石けんはジェントルクレンザー(フォームタイプ)を使用していた。フォームタイプはすすぎが完全でないと,石けん成分が手に残存することで手が荒れるケースもあり,その際にはすすぎを十分にするように指導していた。それでも,石けんでの手洗いによる手荒れのスタッフが常に数名いて,その度に他社の製品を試すという,その場しのぎの対応を続けてきた。そこで,手洗い石けんの見直しが必要と感じ,2015年12月インフェクションコントロールチーム(ICT)会議にて話し合い,数社の製品から新規導入製品について検討し,二社の手洗い石けんのデモンストレーションを実施した。手を洗う頻度が多く,また,手荒れのスタッフが多い集中治療室(ICU)部門に使用してもらい,アンケートをとり,その結果シャボン玉石けん㈱の「バブルガード」に決定した。もう一つのメーカーの製品は,アロマの香り付きの石けんで,評価も良かったのだが,天然素材を使ったシャボン玉石けん㈱の製品は,皮膚刺激が少なく,手が荒れなかったという結果が好評価となり,バブルガードが最終的に採用されたのである。

シャボン玉石けん㈱は北九州の会社であり,以前に工場見学に行く機会もあった。製造工程も見学し,工場職員が舌でなめて製品の完成度を確認していた。なめても問題がない天然素材を使用している製品であり,もし患者が誤飲したとしても,害が少なく,水を飲むことで対処できる,とのことを聞いていたので,天然素材を使用していると,安全管理面でも安心して患者に使用できると考えていた。その点も新規導入を決定付けるきっかけになったのである。2016年よりバブルガードを本格導入して以降,手が荒れて,使用できないと相談してくるスタッフは現在までいない状況である。

また,20年近く当院の新生児部門で働いている委託の清掃担当者から「今の手洗い石けんは手荒れしません。以前の石けんは手が荒れて困っていました」との声を,今回,石けんについての聞き取りを行い初めて耳にした。確かに,清掃業者の職員も,特殊部門で感染管理が重要な部署に配属の場合には,頻回に手を洗う機会が多くなる。病院職員のみならず,委託の清掃業者の職員にも今後はアンケートをとるべきであると今更ながらに反省したのである。

院内患者の手洗い指導活動

当院では閉鎖病棟である精神科病棟にて,患者に向けて石けんによる流水手洗い指導活動を2014年から継続し,効果を実感している。

活動導入の経緯は,毎年,冬場に限らず,インフルエンザ,風邪症状患者が精神科病棟にて増加し,アウトブレイクへの対応を繰り返していた状況があった。そのため,2014年に何らかの新たな対策が必要と考え,作業療法士(OT)との話し合いを持ち,協力を得て,多職種連携による月に1回の手洗い指導をレクリエーションとして開始し,日々のレクリエーションと共に手洗いの時間を設けてもらうことにした(図1)。保育園へも手洗い訪問指導に行き始めていたころで,子供たちの指導に活用している手洗いの歌に合わせて手洗いのポイントを月に1回は必ず復習した。また,その時のトピックス,例えば,食中毒やインフルエンザ,ワクチンなどの話をしたり,患者とのコミュニケーションをとりながら,イベント開催するなど,OTと共に楽しく参加し,同時に手洗い指導ができる様に工夫したものにした。この活動を初めて1年が経過したころには,それまでの様なアウトブレイクは起こらなくなり,その後も活動を継続し,1日に2回は必ず石けんによる流水手洗いが実行されている。現在7年目になったが,今までにアウトブレイクは1度も起こっていないのである(図2)。手洗いの時間には誘導してくれる担当の患者がいて,活動での役割を担ってくれていることも,継続できている要因である。

 

図1 初期の手洗い指導活動(少人数から開始)

 

図2 当院精神科病棟におけるインフルエンザ,風邪症状患者発生の推移

 

月に1回の指導の際には,爪が切られているかのチェックもし,爪を切る習慣を付けてもらえるようになっていった。継続した手洗い指導活動により,自然と手指衛生に対する意識の向上が見られ,食事の前には患者が自分から手指消毒剤を要求するまでになった。また,新たな入院患者が参加する場合には,手洗いチェッカーで手洗い癖を確認している。手洗い指導活動に対するアンケートからは「手洗い指導を受けて手を洗う機会が増えた」「今後も活動を続けて欲しい」という要望が聞かれたのである(図3)。

 

図3 患者からの手洗い指導活動に対するアンケート結果

 

現在のコロナ禍にて,手指衛生や石けんによる流水手洗いの啓発がテレビで流れている状況を,精神科病棟の患者たちは「7年間継続していたことを今更何を言っているのだろう?」と見ている様であった。精神科病棟における手洗い指導は「ニューノーマル」ではなく,以前から実施していた「ノーマル=常識」であった。

これからも,基本の石けんによる流水手洗いにて物理的に汚れを落とし,洗い流す,またはアルコール手指消毒剤の使用を継続していくことが重要である。感染管理は地道な活動だが,今までの活動により,精神科病棟の患者が自分からが手を洗うようになり,その行為により感染対策の効果が持続していることに,正直,驚いている。2名のOTスタッフが共に流行時にインフルエンザに罹患した際も,患者には感染させなかったし,患者もウイルスをもらわなかった。患者が日頃からの手指衛生をできていたお蔭だと感じている。

手洗い訪問指導と手洗いフェスティバル

当院では院内保育所,幼稚園を訪問し,紙芝居を使って手洗いの重要性を教えている(図4)。手洗いDVDに合わせて手洗い手順を教え,実技指導している。10月15日のユニセフ『世界手洗いデー』にちなんで,子供たちに手洗いの大切さを知ってもらうため,10月の日曜日に病院にて子供たちに手洗いの大切さを啓発するイベントとして,手洗いフェスティバルを8年前から行っていた(図5)。ユニセフや石けん,消毒剤業者などもイベントに参加し,商品の展示などの協力をしてもらっていた(図6)。

 

図4 院内保育所での指導風景(紙芝居の後に実技指導)

 

図5 手洗いフェスティバルの手洗い教室コーナー

 

図6 手洗いフェスティバルの企業展示

 

年々,イベント参加者も増え,2015年にはオリジナルキャラクター“手洗い天使アワオくん”も作成し,厚生労働省のインフルエンザ予防啓発のコラボ・ポスターにも登録され,めでたく全国デビューも果たした。

2015年には手洗い天使アワオくんの着ぐるみ(図7)も作成し,久留米市のイメージキャラクター“くるっぱ”と共に手洗いフェスティバルに参加した(図8)。2017年には第5回の手洗いフェスティバルを開催できたが,コロナ禍にて,ここ数年は開催できていない状況である。2020年には初の院外でのイベント開催予定であったが,残念ながら中止となった。数年後にはコロナも落ち着き,啓発活動を再開できる日が来ることが望まれる。

 

図7 マリア像と手洗い天使アワオくん

 

図8 手洗いフェスティバルに参加の子供たち

 

おわりに

当院では,感染管理活動に日々協力してくれている病院職員に支えられ,今後も地道な感染管理活動を継続し,手洗い遵守率日本一を目標とし,患者,職員,地域住民を感染から守る活動を目指していく。

 


掲載:感染対策ICTジャーナル Vol.16 No.3 2021 p.217-222
「■Approach 手指衛生戦略のニューノーマル❷ 手洗い石けんによる手指衛生―無添加石けん導入の取り組みと手指衛生における患者教育の重要性」(特集:コロナ禍の 感染経路別予防策のニューノーマル)

著者プロフィール

馬場 千草(ばば ちぐさ)

社会医療法人雪の聖母会聖マリア病院 医療の質管理本部 看護師長 感染管理認定看護師

一覧へ戻る
関連書籍・雑誌
感染対策ICTジャーナル Vol.16 No.3 2021 特集:コロナ禍の 感染経路別予防策のニューノーマル

編集:
東京女子医科大学医学部感染制御科 教授/同大学病院感染制御科 診療部長 満田 年宏
山形大学医学部附属病院検査部 部長 病院教授・感染制御部 部長 森兼 啓太
自治医科大学附属病院感染制御部長・感染症科(兼任)科長,自治医科大学感染免疫学 准教授 森澤 雄司


2021年7月刊

感染対策ICTジャーナル Vol.16 No.2 2021 特集:診療危機に立ち向かう  新型コロナ対策マネジメント

編集:
東京女子医科大学医学部感染制御科 教授/同大学病院感染制御科 診療部長 満田 年宏
山形大学医学部附属病院検査部 部長 病院教授・感染制御部 部長 森兼 啓太
自治医科大学附属病院感染制御部長・感染症科(兼任)科長,自治医科大学感染免疫学 准教授 森澤 雄司


2021年4月刊

感染対策ICTジャーナル Vol.16 No.1 2021 特集:実践力を強化 標準予防策のトレンド

編集:
東京女子医科大学医学部感染制御科 教授/同大学病院感染制御科 診療部長 満田 年宏
山形大学医学部附属病院検査部 部長 病院教授・感染制御部 部長 森兼 啓太
自治医科大学附属病院感染制御部長・感染症科(兼任)科長,自治医科大学感染免疫学 准教授 森澤 雄司


2021年1月刊