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2021.06.29 病原体

デング熱・チクングニア熱・ジカウイルス感染症の国内動向と今後の予測

著者:清水 少一

デング熱・チクングニア熱・ジカウイルス感染症は共にヤブカ属の蚊によって媒介される感染症法の四類感染症であり、東南アジアを中心に世界中の熱帯地域で雨季を中心に流行している。日本ではこれらの感染症を媒介できるヒトスジシマカがヤブカ属の大勢を占めており、特にデング熱については2014年の代々木公園での発生以降、この蚊が媒介したと考えられる国内感染症例の報告が散見されている。ヨーロッパや米国の南部では、東南アジアなどのデング熱流行地域と同様にネッタイシマカ(日本には定着していないヤブカ)によるデング熱の国内発生はこれまでも時々見られていたが、近年はヒトスジシマカによるデング熱の国内感染が発生していることに加え、ジカウイルス感染症の国内感染も報告されている1)。日本ではチクングニア熱とジカウイルス感染症の国内感染はまだ報告されていないものの、今後、海外からのヒトや蚊を介したウイルスの流入や、温暖化等による媒介蚊成虫の越冬などの条件次第で、これらの感染症が国内定着する可能性がある。

新型コロナウイルス感染症(コロナ)のパンデミックによる海外渡航制限に伴い、2020年はデング熱・チクングニア熱・ジカウイルス感染症共に日本での報告数は減少した2) )。一方で海外でのデング熱は増加した地域も多く、コロナに対する都市封鎖や受診控えによる診断の遅れが影響しているという報告もある3,4) 。今後、コロナに対する海外渡航制限が緩和された場合、海外で増加したこれらの感染症の影響を受けて輸入感染のみならず、それに引き続く国内感染例の増加も懸念される。もちろんオリンピック、パラリンピックもその契機となり得る。特にデング熱は発熱や筋肉痛、消化器症状などを呈し、コロナに似ている部分があるため、両疾患の診断や治療の遅れも問題になり得る。海外渡航制限がある内に、日本でコロナに対する集団免疫形成を目指して、少しでも後顧の憂いを断っておきたい。


図 ヤブカ媒介感染症届出数の推移

デング熱・チクングニア熱・ジカウイルス感染症はいずれも特異的治療が存在せず、ワクチンはデング熱だけに存在するのみ(しかも現実的には日本人には使用が難しい)であるため、予防方法は蚊の刺咬を防ぐことに絞られる。これらの感染症流行地への渡航者に対しては昆虫忌避薬の使用を勧めておきたい。エビデンスがはっきりしているのはディートとイカリジンである。それぞれ濃度依存的に効果持続時間が異なるため、使用間隔に注意が必要である。更に忌避薬と日焼け止めを併用する際には、先に日焼け止めを使い、後から忌避薬を使用しなければ忌避効果を発揮できない点にも注意する。また、就寝中に蚊に曝露される危険がある場合(キャンプや安宿利用等)は、殺虫剤処理した蚊帳(LLIN: Long-Lasting Insecticide-treated Net)を入手・使用することも併せて指導したい。長期に滞在する場合は、住居周辺の水たまり(植木鉢や空の容器等)を除去して蚊の発生を抑えるようにすると共に、マラリアの流行地域においては予防内服も検討する必要がある。当然、蚊媒介感染症流行地域からの渡航者に対しても屋外での昆虫忌避薬を指導・啓蒙するのが理想である。

〔文献〕
1)Silva NM et al:Dengue and Zika Viruses: Epidemiological History, Potential Therapies, and Promising Vaccines. Trop Med Infect Dis 5:150, 2020

2)国立感染症研究所:感染症発生動向調査 週報(IDWR)

3)Rabiu AT et al:Dengue and COVID-19: A double burden to Brazil. J Med Virol 93:4092-4093, 2021

4)Nacher M et al:Simultaneous dengue and COVID-19 epidemics: Difficult days ahead? PLoS Negl Trop Dis 14:e0008426, 2020

著者プロフィール

清水 少一(しみず しょういち)

産業医科大学医学部免疫学・寄生虫学 講師