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2021.05.13 病原体

重症COVID-19肺炎を発症した維持透析患者

著者:柴田 怜

1.症例提示

48歳男性
【主 訴】発熱
【現病歴】
1型糖尿病を背景とした慢性腎不全のため近医で維持透析中。
入院2日前に39.1℃の発熱があり、翌日に近医でSARS-CoV-2抗原検査を施行して陽性が判明。SARS-CoV-2 PCR検査で陽性が判明したため当院へ入院した。
【既往歴】閉塞性動脈硬化症
【職 業】無職
【透析歴】14年
【嗜好歴】喫煙歴 40本/日
【飲 酒】機会飲酒
【身体所見】
身長 175cm、体重 81kg、意識清明、血圧 125/75mmHg、脈拍 96/分、体温 36.9℃、SpO2 94%(室内気)
【胸部聴診】ラ音聴取せず
【血液検査所見】
白血球 8,430/μL(好中球 84.7%、リンパ球 8.4%)、LDH 215U/L、Dダイマー 1.1μg/mL、血清フェリチン 169ng/mL、CRP 18.72mg/dL、プロカルシトニン 5.71ng/mL
【胸部CT所見】両肺野に多発するすりガラス影あり

2.臨床経過

入院時SpO2 94%と軽度の低下があり、中等症Ⅰと判断してファビピラビルの内服およびヘパリンの持続点滴投与を開始した。第2病日に呼吸状態の急激な悪化のため、人工呼吸器管理を開始した。同日より重症COVID-19肺炎としてデキサメサゾン 6.6mg/日の経静脈的投与および腹臥位療法を開始した。両肺野にすりガラス陰影は残存するも、酸素化などの改善を認めたため第5病日に抜管したが、呼吸状態が不安定となり、翌日に再挿管となった。その後、P/F比 140まで呼吸状態は悪化し、胸部CT所見は広範なすりガラス陰影を認め、急性呼吸窮迫症候群(ARDS)に矛盾しない所見であった。継続して炎症反応は高値で推移したため、サイトカインストーム抑制目的に第15病日にトシリズマブを投与した。その後、呼吸状態は緩徐に改善傾向となり、気管切開の上で第22病日に人工呼吸器を離脱した。

3.考察

維持透析を要する末期腎不全患者は、高血圧や糖尿病など複数の基礎疾患を有することが多く、COVID-19に対して脆弱な背景がある。米国からの報告では透析患者がCOVID-19に罹患した場合の予後は不良であり、死亡率は3割にも上ると報告されている1)。日本透析医学会ホームページによると、2021年5月7日時点でこれまでに1,595人の透析患者がCOVID-19に罹患しており、228人の死亡が報告されている。罹患者の約半数の807人は転帰が不明であり、本邦においても死亡率が高いことが想定される。本症例は抗ウイルス薬としてファビピラビル、抗炎症作用薬としてデキサメサゾンおよびトシリズマブを投与し、救命し得た一例であった。COVID-19の治療は日進月歩で発展しているが、透析患者における治療薬の使用症例も集積されてきており、今後、安全性および有効性についての検証が望まれる。

〔文献〕
1)Valeri AM et al:Presentation and Outcomes of Patients with ESKD and COVID-19. J Am Soc Nephrol 31(7):1409-1415, 2020, Epub 2020 May 28.

著者プロフィール

柴田 怜(しばた さとし)

新潟大学医歯学総合病院呼吸器・感染症内科