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2021.04.23 病原体

新型コロナ重症例の免疫抑制療法は重要である~バリシチニブの承認を受けて~

著者:渡辺 彰

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)で我々は、その重症化に関与する生体免疫の重要性を知った。発症後1週間~10日程度は安定していた例が突然の高熱や呼吸困難などで重症化し、不幸な転帰となる例も出るのであるが、多くは各種サイトカインの過剰産生が原因で、それを抑える免疫抑制治療が有効であることも分かってきたのである。

当初は否定的だった世界保健機関(WHO)が2020年9月、COVID-19の重症例の治療にデキサメタゾンの投与を一転して推奨するなど、COVID-19の治療は大きく変わると共に、関節リウマチ(RA)の治療薬を中心に各種の臨床試験が進行中である。IL-6受容体を阻害するトシリズマブやサリルマブ、あるいはインターフェロンのシグナル伝達に関与するJAK(ヤヌスキナーゼ)を阻害するトファシチニブ、バリシチニブ、ルキソリチニブなどであり、バリシチニブはこの度、抗ウイルス薬のレムデシビル、ステロイド薬のデキサメタゾンに続く3番目のCOVID-19治療薬として我が国で承認された。ただし、レムデシビルとの併用投与が原則である。

バリシチニブ(オルミエント)は2017年9月に、既存治療で効果不十分な関節リウマチの治療薬として承認されたJAK阻害薬である。COVID-19入院成人患者を対象に、レムデシビルとの併用療法の有効性と安全性を確認する二重盲検無作為化プラセボ対照試験1)が行われており、併用療法群(バリシチニブ群)515例対プラセボ群518例の間で、28日時点の死亡率は5.1%対7.8%で有意差はないものの、回復期間の中央値はバリシチニブ群7日、プラセボ群8日で有意差があった(P=0.03)。また、重症度が低い例ではバリシチニブ群とプラセボ群の間で改善率に有意差がないものの、高流量酸素吸入や非侵襲的人工呼吸を要する重症度の高い例ではバリシチニブ群の改善率が有意に高く、さらに、重篤な有害事象の発現率もプラセボ群の21.0%に対してバリシチニブ群では16.0%と有意に低かった。また、新たな重複感染の併発率は5.9%対11.2%とプラセボ群より有意に低いなど、本剤の投与は重症例で有用と考えてよい。ステロイド薬のデキサメタゾンと同じような成績である。

国産のトシリズマブ(アクテムラ)では、最新のNew Engl J Medに2つの臨床試験の成績が報告された。Rosasら2)は、重症のCOVID-19 入院例でプラセボ対照の第Ⅲ相試験を行ったが、プラセボに比し有効率に有意の改善を見い出しえなかったものの、Gordonら3)は国際共同の多施設臨床試験で、COVID-19の重症例を対象に標準治療のみの群、標準治療にトシリズマブあるいはサリルマブ(ケブザラ)を併用した群の3群間で改善率や死亡率を見て、トシリズマブ群とサリルマブ群の双方が標準治療のみの群より有意な改善を得ている。バリシチニブを含めてCOVID-19の重症例に対する免疫抑制療法の重要性がうかがえるものである。

〔文献〕
1)Kalil AC et al:Baricitinib plus remdesivir for hospitalized adults with Covid-19. New Engl J Med 384:795-807, 2021.

2)Rosas IO et al:Tocilizumab in hospitalized patients with severe Covid-19 pneumonia. New Engl J Med 384:1503-1516, 2021.

3)The REMAP-CAP Investigators:Interleukin-6 receptor antagonists in critically ill patients with Covid-19. New Engl J Med 384:1491-1502, 2021.

著者プロフィール

渡辺 彰(わたなべ あきら)

東北文化学園大学医療福祉学部抗感染症薬開発研究部門 特任教授/公益財団法人宮城県結核予防会 理事長