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2021.04.07 領域・分野別

2020年度の全国サーベイランス動向―新型コロナ流行下のJANIS 、JHAISデータを読む

著者:森兼 啓太

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響の大きさは改めて言うまでもないが、継続して収集されている医療に関する様々なデータに大きな影響を与えている。では、医療関連感染および病原体分離のサーベイランスである厚生労働省院内感染対策サーベイランス事業(JANIS)や日本環境感染学会JHAISにおいて、その影響はどのような形で現れているのであろうか?

まず、JANISの方から見ていこう。COVID-19の影響を全く受けていない2019年7~9月と2020年7~9月で、JANIS検査部門にデータを提出した施設数はそれぞれ2,039と2,136である。COVID-19の影響下における提出施設数の方が多い。ちなみに2017年と2018年の同期(7~9月)はそれぞれ1,792と1,978であり、JANIS参加施設がもともと増加傾向にあったと言える。データ提出数がCOVID-19の影響を受けていない理由として、検査部門データは検査機器や検査部情報システム(LIS)から簡単に抽出でき、提出に関して大きな労力を要しない点があげられる。

解析結果への影響でみると、例えば大腸菌のレボフロキサシン(LVFX)耐性〔基質特異性拡張型βラクタマーゼ(ESBL)産生菌の目安〕は2017年から2020年の同期(7~9月)で39.8%、40.8%、41.6%、41.4%となっており、COVID-19流行以前からの上昇傾向に歯止めがかかったようにも見える。ユニバーサルマスキングによる呼吸器感染症の減少、COVID-19感染を恐れた受診控えとそれらに伴う経口抗菌薬処方の減少が背景にあるかもしれない。

では、サーベイランス自体に労力を要し、COVID-19対応でその実施に障害をきたしやすい手術部位感染(SSI)サーベイランスで見てみると、2017年から2020年の1~6月分の集計対象医療機関は662、814、714、668であり、2018年をピークに減少していた。サーベイされた手術件数合計でみても、125,588件、151,336件、138,592件、124,446件と同様の傾向であった。COVID-19の流行以前から減少していたサーベイランス参加施設・手術件数が流行以降も減少を続けていることになるので、COVID-19流行の影響の推定は困難である。

発生率への影響をみると、最も多い手術件数がサーベイ対象となった結腸(COLO)でみると、この4年間で11.2%、10.7%、9.2%、8.9%とこちらは着実に低下している。JANISにおけるSSI発生率の低下傾向は以前から見られており、COVID-19の影響を受けることなく着実な低下が続いていることが見て取れる。

次にJHAISであるが、デバイス関連感染は2018年12月まで、SSIは2019年12月までのデータ解析結果が公開されている。COVID-19流行がJHAIS参加状況および感染率等に与える影響の検証は、これから行われることになろう。

著者プロフィール

森兼 啓太(もりかね けいた)

山形大学医学部附属病院検査部 部長・病院教授 感染制御部 部長