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2021.01.13 病原体

手術医療の新型コロナウイルス感染対策はどうしている?

著者:渡邉 学

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、終息の気配は見られず、全世界に急速に広がっています。

手術医療に関しては、日本医学会連合から出された提言に「COVID-19の感染が拡大した状況下では、診療シフトによる医療体制に制限が生じ、外科治療への影響は避けられない。その中で原疾患の治療を行うかの判断とともに患者安全の確保、外科医を含めた医療従事者の曝露防止、院内感染の防止など、すべてを満たす必要がある。」と記載されています(1)。また、手術前7日から術後30日までに新型コロナウイルス感染をきたした場合は重症化する傾向があり、23.8%が30日以内に死亡しているという報告もあります(2)。そのため、PCR検査や胸部CT検査などの術前精査が各医療機関の判断で行われています。また、COVID-19症例では、致命的疾患ではない疾患の手術、いわゆる不急の手術に対しては、延期の対応が推奨されています。手術の延期により、患者と医療従事者の両方に対する感染リスクが最小限に抑えられ、医療資源の使用も最小限に抑えられます。COVID-19症例に対する手術は、「緊急で手術しなければ致命的となり得る疾患」のみが対象となり、手術室の運用(陰圧室使用・人数制限・ゾーニングなど)や周術期管理まであらゆる感染リスクの軽減措置を講じたうえで慎重に実施しなければなりません。また、術中は、気管挿管および抜管、電気メスなどエネルギーデバイスの使用により、エアロゾル(気体中に浮遊する微小な液体または固体の粒子と周囲の気体の混合体)を発生し得るため、飛沫感染のリスクが高まることを認識し対応する必要があります。

先述の提言のなかでも示されていますが、手術医療では特に、患者の容態、疾患の重症度、地域の感染状況、各施設での医療供給体制(医療リソース、人的資源、医療器材確保)などを包括的に勘案して、COVID-19の対応を行うことが重要です。

(著者:東邦大学医療センター大橋病院外科 教授 渡邉 学)

〔文献〕
(1)一般社団法人日本医学会連合:日本医学会連合 COVID-19 expert opinion 第 2 版(2021年1月4日版)
https://www.jmsf.or.jp/uploads/media/2021/01/20210104093651.pdf
(2)COVIDSurg Collaborative:Mortality and pulmonary complications in patients undergoing surgery with perioperative SARS-CoV-2 infection: an international cohort study. Lancet 396(10243):27-38, 2020

著者プロフィール

渡邉 学(わたなべ まなぶ)

東邦大学医療センター大橋病院外科 教授

1991年 東邦大学医学部卒業。〔専攻分野〕肝胆膵外科、内視鏡外科、外科感染症 〔専門医・指導医〕日本外科学会 専門医・指導医、日本消化器外科学会 専門医・指導医、日本肝胆膵外科学会 高度技能指導医、日本胆道学会 認定指導医、日本膵臓学会 認定指導医、日本外科感染症学会 外科周術期感染管理認定医・外科周術期感染管理教育医、ICD (Infection Control Doctor)、日本化学療法学会 抗菌化学療法認定医